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【本】「西洋音楽史」:古楽を全体像として知りたい人に

2006/06/06

中公新書で「西洋音楽史」というタイトルの本があります。著者は岡田暁生さん。
副題に「クラシックの黄昏」。また、帯には「流れを一望」とありますが、内容的には古楽(バロック音楽)を単なるBGMから一歩進んで楽しむには絶好の解説書になっていると感じましたのでご紹介します。
内容と著者の語り口からして、多少理屈っぽくなっているのはしかたがないところですが内容はいたって明快。ぼくの場合は仕事柄チェンバロやヴィオールの音楽を聞きかじりはじめたという感じなので、バロック音楽は、作曲家の固有名詞が脈絡なく存在していたのですけど、この本を読んで時代背景や音楽上の技法などを含めて少しイメージがはっきりとしてきた気がします。
下にアマゾンのリンクを貼っておきますが、中公新書だし2006年3月に第6版が印刷されているし、値段も780円だし、たぶんご近所の本屋さんでも見つかりますよね?
煩雑になりますが、前半の中世からバロックまでのキーワードを羅列してみます。

●この本で扱う音楽の種類=「芸術音楽」(記述される音楽。昔は紙や羊皮紙なんて貴重品だし、何かを読み書きすること自体が特殊な技術。したがってなんらかの意味でのエリート集団によって支えられてきた音楽)と民衆・世俗音楽との対比を背景としながら、中世の音楽から紐解いていく。我々は昔の音楽を語るときも今の時代の音楽(教育)による常識を前提として見てしまい勝ちですが、確かに初期の西洋音楽には五線譜やおたまじゃくしなんて無かったわけだ、という再認識。

●西洋音楽のはじまり: 単旋律のグレゴリオ聖歌(もちろん小節や拍数、和声の概念は無い)に始まり、「オルガヌム」という副旋律の導入。三声からなる「モテット」(後にはパロディの要素が入ってくる!)とその爛熟。それまでの三位一体(神学)に基づいた三拍子系中心から二拍子の導入に際しての論争。日本人には希薄なキリスト教を骨格とした教会音楽というジャンルを再認識。石造りの修道院の中で、お坊さんたちが歌っていた聖歌。そこにも新奇な、新しい音楽を作った人がいて、きっと賛否両論ある中で聴衆の好奇の目(耳)で支持されて普及していったのでしょう。そういう意味では今のポピュラー音楽やロックのありようと変わらない?

●ルネッサンス: 社会の発展、世相やイタリアの気質を反映したルネッサンス音楽の発達。フランドル楽派の隆盛。「作曲家」の出現。カソリックに対するプロテスタント、ルター達による「コラール」の誕生。このあたりは宗教裁判などに代表される中世の暗い面から脱して、生活を楽しむ市民文化が出始めたことと対応するのでしょうか。

●バロック音楽、和声の発見: 横軸の旋律に加えて、縦軸をなす「和音」(と不協和音)の発見と発達。「ドミソ」の和音の導入(それ以前はほとんど「ドソ」の二音で終わる)。長調、短調の調性の導入いわゆる「バロック」音楽の始まり。絶対王政時代のバロック音楽。快適なBGMとしての器楽曲と、喜怒哀楽を音で表現する劇(バレー、オペラ)音楽。音楽の一つのポイントは「驚き」だと思いますが、時代時代によって新しいものを求めてきた流れがよくわかります。
・ 技法的な特徴としての「モノディ」と「通奏低音」。「協奏曲」
・ バッハ: 音楽後進国ドイツの、プロテスタント社会から生まれた特殊な音楽ジャンルとしてのバッハ。「難解で時代遅れのアンティークスタイル」?! (なんとなくバロック=バッハのような印象がありましたけど、確かに彼は特殊なのかも知れませんね)
・ 王権を飾り立てるものとしてのバロック音楽

この後、王権の崩壊、ブルジョワジーの台頭と連動して音楽が閉じられたサロンから大衆向けのホールに出て行き、それに伴って職業作曲家、職業演奏家が出現。サロン音楽もブルジョワジーの家庭のステータスシンボル的に普及していき、出版による版権収入という概念が出てきます。この本ではあまり触れられていませんが、楽器屋の目から見るとこの大衆化に伴って楽器も大きく変わり始めました。鍵盤楽器ではピアノが開発されていきます。昔の絵で見るようなお姫様が素養と一つとして弾きこなす、という程度ではすまない楽器に変わっていきます。バイオリンでさえストラディバリなどがほぼ100%改造されてしまったように、弦の張りが強く、大きく響き渡る音が出せるようになり、ヴィオール(ガンバ)族が駆逐されはじめます。古楽器愛好者としてはこのあたりで筆をおきたくなる時代ですね。

●この本の構成としてはここまでで、全体の半分くらいです。
あとはウィーン古典派からロマン派など、子供の頃学校でならった巨匠の名前がひしめいていますが、バロックからは外れてくるのでここでは割愛します。
最後は現代音楽からポピュラー音楽まで。ジャズのマイルスやコルトレーンなどが即興とは言いながら考え抜かれた緻密な構成やフレージングで演奏されていることなどにもふれています。(コルトレーンのドラマーとして長くいっしょにすごしたエルヴィンさんに話を聞いたことがありますが、コルトレーンは演奏する曲について、ときには何日も、一言も口を聞かずにフレージングなど熟考していたそうです)。やはりこうやってみるとバロック音楽とジャズは近いものがあります。
新書ですから決して大部の著作ではありませんが、著者個人の主観をはっきりと打ち出しながら、なかなかエキサイティングな読み物になっていると思います。この要約の煩雑さに負けずにぜひ店頭ででも目を通してみてください
m(_""_)m




素晴らしい!
このブログを拝見しただけで、音楽の歴史の概要を捕らえることができますね。
「西洋音楽史」、勉強不足のため、まだ未読です。
今日のレッスン後、本屋に見に行こう♪

junさん、そうなんです。我々の受けた音楽教育というのは、どうも断片的。作曲家の名前や年代、楽曲の一つ一つの演奏や鑑賞ということはあっても、西欧の歴史、文化、生活といった背景と連動した活きたイメージにはなりにくかったように思います。ひとつひとつのパズルのピースが、完璧ではないにしてもパタパタとはまっていって全体の絵が見えてくるような、そんな感じを受けました。
今日、雨宿りで入った本屋さんで同じ著者の「オペラの運命」という(やはり中公新書)本を見つけて買ってしまいました。今月は「フィガロ」のチケットも買ってるし、少しオペラのことも勉強しようかな(笑)

楽器は在庫があれば全て試奏可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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